大会論題

共通論題「比較優位論の現代的意義:『経済学および課税の原理』出版200年記念」

1817年にデイヴィッド・リカードの『経済学および課税の原理』の初版が出版され、本年で200年になります。同書の第7章でリカードが提唱した比較生産費説は、1776年のアダム・スミスの『国富論』の出版に端を発する自由貿易論を発展させ、国家間の絶対生産費ではなく比較生産費、すなわち比較優位こそが各国の特化パターンを決定し、交換を通じた互恵的な貿易利益の源泉となることを示しました。リカードや同時期の経済学者であるジェームズ・ミル、ロバート・トレンズ、ジョン・スチュアート・ミルらにより展開された比較優位論は、自由貿易の利益を説く古典派経済学の大きな理論的支柱となり、従来の重商主義の考えを大きく転換させました。しかし、リカードは投下労働価値説を基礎に理論を構築し、国内では商品の価値を投下労働量により規定しましたが、国際貿易に関しては投下労働価値説が成り立たないとしていました。その結果、リカードの比較生産費説には異なる立場から様々な解釈が与えられることになりました。

市場メカニズムの有効性を唱える新古典派経済学は、投下労働価値説を否定しつつ、需給均衡による価格決定を前提にして、比較優位論を展開しました。なかでも、各国の要素賦存の差異を比較優位の源泉とするヘクシャ=オリーン=サミュエルソン理論は、リカードの比較生産費説と並び新古典派の比較優位論の大きな根拠となりました。一方、マルクス派経済学では、逆に労働価値説を国際商品交換に適用した国際価値論を展開することにより、リカードの比較生産費説の再検証が行われてきました。マルクス派の取り組みは、アルギリ・エマニュエルの不等価交換モデルの構築や従属論の展開などにも大きな影響を与えました。さらに、ピエロ・スラッファは新古典派における需給均衡による価格決定を批判し、新古典派ともマルクス派とも異なる「生産方式に規定された価格決定」を提唱しました。その結果、スラッフィアンないし現代古典派と呼ばれる立場からのリカードの貿易理論の再構成が試みられるようになりました。比較優位論の再検討は、現在でも盛んに研究が行われ、新たな成果が多く生み出され続けています。

現代の国際貿易の利益を考えるための基本命題として、比較優位論は未だに大きな影響力を有していることは疑いの余地がありません。理論分析のみならず、データを用いた実証分析により、比較優位論の現実妥当性を統計的エビデンスに基づいて明らかにする研究も盛んに行われています。しかし、それぞれの立場における研究の潮流や最新の研究成果を共有し議論する場は、これまで必ずしも提供されていませんでした。
近年、各国で経済のグローバル化に逆行する政策判断が散見され、再び保護主義が台頭することも危惧されはじめています。また、多国籍企業の海外進出やアウトソーシングなどを通じて新たな国際分業体制が世界中で構築されています。そのような状況のなか、将来の世界貿易体制のあるべき姿を考え、世界経済の発展と国民生活の向上の達成のために経済学の知見をよりいっそう生かしていくためには、現代の国際経済学の原点というべきリカードの比較生産費説、およびそこから派生した比較優位論について、今一度理解を深める必要があるのではないでしょうか。

こうした観点から、リカードの『経済学および課税の原理』出版200年を記念して、共通論題では比較優位論の現代的意義を再検討し、自由貿易体制がもたらす利益あるいは瑕疵について、様々な視点から議論しその論点を整理することが重要と考えます。具体的には、以下のような問題領域を想定しています。

  1. リカードの比較生産費説の再検討
  2. 比較優位論の今日的解釈
  3. 学説史から見たリカードの比較生産費説
  4. 比較優位論の実証研究の展開
  5. その他

会員の皆さまの積極的な参加とご発言を期待しております。

「自由論題セッション」について

全国大会の「自由論題」につきましては、例年通り自由なテーマで報告希望の申し込みを受け付け、それらを幾つかのセッションに分けて構成する方法をとります。プログラム委員会では、予め以下の「セッション」を想定しておりますので、自由論題の報告希望者は、「報告申込書」に該当セッションを明記してお申込みください。

  1. 国際貿易
  2. 貿易政策
  3. 国際金融・国際マクロ
  4. 開発経済
  5. 直接投資・多国籍企業
  6. 欧米経済
  7. アジア経済
  8. その他各国・地域経済
  9. 国際通商体制
  10. 地域経済統合
  11. 環境・資源エネルギー
  12. 国際政治経済学
  13. その他

「企画セッション」について

本大会より、「企画セッション」が設けられることになりました。代表者が事前に内諾を得た上で報告者・討論者を3名ずつ選び、セッション単位で報告を申し込むことが可能です。会員が自ら柔軟にセッションを構成し報告を申し込む事ができ、様々な研究テーマに対応することが可能であるという点で、有意義な試みになることが期待されます。報告の可否はセッション単位で行われ、受理された場合は自由論題の時間帯に企画セッションとして開催されます。企画セッションの詳細については、後述の「企画セッション報告の概要」をご覧ください。

「ポスター・セッション」について

第70回全国大会(2011年)より、「ポスター・セッション」が設けられました。報告者との密なるコミュニケーションが可能という点で、オーディエンスにとっても大変有意義な報告形式であり、本大会でも引き続き実施いたします。本セッションでの発表を希望される会員は、後述の「ポスター・セッション報告の概要」を参照のうえ、その旨を「報告申込書」を用いてお申し込み下さい。また、第74回大会から、ポスター・セッションの報告者全員に対し、各自1分間の「フラッシュ・トーク」の機会を設けることにしました。フラッシュ・トークとは、大会1日目のポスター報告に先立ち、各報告者がスライド1枚を映写しながら、報告の主張やセールスポイントを簡潔に口頭説明するセッションです。フラッシュ・トークについては、後述の「フラッシュ・トークの概要」に示す要領に従い、ご準備ください。

英語での報告について

「英語セッション」は、本大会では特別に設けませんが、英語による報告も可能ですので、英語による報告を希望される場合は、自由論題の各セッション内でお願いします。なお、「報告申込書」にて報告言語を選択してください。

インフォメーション

日本大学経済学部


日本国際経済学会 第76回全国大会

日本大学経済学部

2017年10月21日(土)・22日(日)


お問い合わせ

第76回全国大会準備委員会

  • E-mail : jsie2017@gmail.com
  • 住所 : 〒101-8360
    東京都千代田区三崎町1-3-2
    日本大学経済学部
    齋藤哲哉研究室気付
    日本国際経済学会 第76回全国大会準備委員会宛

第76回全国大会準備委員会

呉 逸良
小森谷徳純
齋藤 哲哉(委員長)
中村 靖彦
橋本 英俊
羽田 翔
陸  亦群


第76回全国大会プログラム委員会
椋 寛(委員長)