大会論題

日本国際経済学会 第81回全国大会 共通論題 趣意文

「環境・資源・災害のリスクと国際経済」

2021年に開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)において、世界の平均気温の上昇を産業革命前の水準から1.5度以内に抑えるとの目標が合意されました。しかし、その具体的な道筋については必ずしも明確にされていないこと、先進国と開発途上国との対立が解消されていないことなどの問題が指摘されています。気候変動に限らず、海洋汚染、水質・土壌汚染など様々な環境問題と国際貿易との関連がGATTおよびWTO(世界貿易機関)の下で議論されるようになってから、また国際経済学で理論・実証の両面から研究されるようになってから30年以上がたちました。しかし、現実の政策や制度の面においても、また学術的研究の面においても、多くの課題が残されています。

気候変動による平均気温の上昇は、経済活動へのリスクを高めます。それは豪雨、台風・サイクロン・ハリケーンなどによる自然災害の発生確率を高め、被害地域における生産活動を一時的にストップさせることにつながります。もちろん、自然災害は気候変動によるものに限ったことではありません。東日本大震災が東北にある生産拠点やサプライチェーンに大きな影響を与えたことは記憶に新しく、それは日本の実質GDPや輸出入に短期的な落ち込みをもたらしました。また、COVID-19によって私たちは改めてグローバルなリスクを認識しました。ポストコロナを見据えて、脱炭素のための環境政策の国際調和はもちろんのこと、このリスクに機動的に対応するための企業のグローバル展開、サプライチェーンの構築、さらには社会のレジリエンスを高める制度の設計が必要です。

資源の偏在と資源の減少・枯渇も、国際社会にとってはリスク要因となります。2021年に観察された石油製品の価格上昇は、経済社会に深刻な影響を及ぼしており、産業によっては大きな収益の減少につながっています。エネルギー源の多様化戦略にも影響を与えます。森林、水産物、水のような再生可能資源の減少に直面している地域も多く、農業にも深刻な被害をもたらしています。

また、企業の環境配慮行動も市場で評価されるようになってきました。財・サービス市場では、エコラベルやトレーサビリティを通じて生産情報を考慮に入れた消費(倫理的消費)が増加してきました。生産工程が国際的に複雑化・分断されている現代では、環境破壊や資源枯渇を深刻化させるような生産活動を行っている企業が、市場でネガティブな評価を受けるリスクは以前よりもはるかに高いといえます。ESG投資など金融市場を通しても企業価値そのものが評価されるようになり、多くの企業が環境配慮行動を選択するインセンティブが生まれています。

さらに、石油関連プラントなど、脱炭素社会への移行により座礁資産になり得る施設や技術などが増えてくることも考えられ、またこれらに融資を行ってきた金融機関に与える影響も懸念されています。新たなエネルギー関連の施設・技術に関するリスクの評価も重要になってくる中で、新旧合わせての施設・技術に関するリスク評価と環境金融のあり方、銀行経営のリスク評価のあり方なども議論されるようになってきました。

こうした環境・資源・災害とそのリスクの問題は、各国の対応のみに任せるのではなく、国際貿易や国際金融を通じてグローバルに対処すべき問題です。実際に、環境協定の締結、貿易相手国の制度にリンクさせた国境措置、グリーン国際金融センターの整備など、様々な政策や制度が実施・実現の段階に到達しています。カーボンリーケージの問題を考えると、排出権市場を今よりも広域のシステムとして機能させることも重要な戦略になり得ます。

以上の事実を踏まえると、国際経済学の取り組むべき課題はまだまだ多く残されていることが分かります。まず、環境・資源・災害の問題、あるいはそれらのリスクが、生産性、比較優位、企業のサプライチェーン展開などに与える影響に関する研究の蓄積が必要です。また、この問題に対処するための国際貿易や国際金融の制度設計、およびそれらの制度と調和する国内政策のデザインについても、共通論題で議論することは大きな価値があります。

例として、以下のような問題領域を想定しています。

  1. 気候変動が生産性に与える影響と比較優位
  2. 気候変動に関する国境措置
  3. カーボンリーケージと排出権市場
  4. 資源の偏在と国際価格の変動
  5. 災害に対する社会システムのレジリエンスと国際貿易ネットワーク
  6. ポストコロナにおける企業のグローバル展開と災害リスク
  7. 直接投資と環境技術
  8. 環境・資源と貿易に関する国際機関の役割
  9. 環境金融とリスクの評価
  10. ESG投資とグリーン国際金融
  11. 気候変動に対する国際政治経済学的アプローチ

多くの方々からの報告応募をお待ちしております。

「自由論題セッション」について

全国大会の「自由論題」につきましては、例年通り自由なテーマで報告希望の申し込みを受け付け、それらを幾つかのセッションに分けて構成する方法をとります。プログラム委員会では、予め以下の「セッション」を想定しておりますので、自由論題の報告希望者は、「オンライン入力」において該当セッションを選択してお申込みください。

  1. 国際貿易
  2. 貿易政策
  3. 国際金融・国際マクロ
  4. 開発経済
  5. 直接投資・多国籍企業
  6. 欧米経済
  7. アジア経済
  8. その他各国・地域経済
  9. 国際通商体制
  10. 地域経済統合
  11. 環境・資源エネルギー
  12. 国際政治経済学
  13. その他

「企画セッション」について

 第76回全国大会(2017年)より、「企画セッション」が設けられることになりました。代表者が事前に内諾を得た上で報告者・討論者を3名ずつ選び、セッション単位で報告を申し込むことが可能です。会員が自ら柔軟にセッションを構成し報告を申し込む事ができ、様々な研究テーマに対応することが可能であるという点で、有意義な試みになることが期待されます。報告の可否はセッション単位で行われ、受理された場合は自由論題の時間帯に企画セッションとして開催されます。企画セッションの詳細については、「報告募集要項」の「企画セッション報告の概要」をご覧ください。

英語での報告について

 「英語セッション」は、本大会では特別に設けませんが、英語による報告も歓迎ですので、英語による報告を希望される場合は、自由論題の各セッション内でお願いします。なお、「オンライン入力」にて報告言語を選択してください。

インフォメーション

近畿大学

日本国際経済学会 第81回全国大会

近畿大学経済学部

2022年10月1日(土)・2日(日)


お問い合わせ

第81回全国大会準備委員会

  • E-mail : jsie2022zenkoku@gmail.com
  • 住所 : 〒577-8502
    大阪府東大阪市小若江3-4-1
    近畿大学経営学部 井出研究室
    第81回全国大会準備委員会宛

第81回全国大会準備委員会

井出文紀(近畿大学)委員長
福井太郎(近畿大学)
丸山佐和子(近畿大学)
星河武志(近畿大学)
森田忠士(近畿大学)


第81回全国大会プログラム委員会
東田啓作(関西学院大学)委員長
板木雅彦(立命館大学)
伊藤由希子(津田塾大学)
大野早苗(武蔵大学)
清田耕造(慶應義塾大学)
武智一貴(法政大学)
西山博幸(兵庫県立大学)
福井太郎(近畿大学)
古川雄一(中央大学)