
共通論題
「2008年金融危機後の世界経済 -アメリカ、EU、新興国における危機の様相と対応」

2008年以降、先進国が冷戦後初めてと言ってよい本格的な経済危機に苦しむ一方で、世界経済における新興国の存在は大きくなっています。とりわけ中国は金融危機の影響を最小限にくいとめ第二位の経済大国に浮上し、世界経済の重要なアクターとなっています。本年は、金融危機後の世界経済の三極としてアメリカ、EU、新興国を取り上げます。
我々は金融危機について正確に理解しているでしょうか。2008年に認識の誤りを認めたグリーンスパンは、2011年にはドッド=フランク法に反対して、「2008年のような例外を除けば、『世界的な見えざる手』は比較的安定した状態をつくり出した」と述べました。アメリカ政府の見解を示したThe Financial Crisis Inquiry Report(2011)は、「金融商品による金融商品の生産」の実態を描き出す一方で、「危機は規制の失敗によるものであり、回避可能であった」と述べています。金融危機を「例外」や「ブラック・スワン」と捉えて良いのでしょうか。また、危機は規制によって回避できるものでしょうか。
リーマン・ショック後、アメリカでは、財務省、FRB、FDICが政策を総動員して救済に当たりました。しかし、救済の対象は金融機関に偏り、住宅所有者の救済や失業の解決は十分ではなく、中間層の没落も進んでいます。その不満の表れがOccupy Wall Streetでしょう。アメリカは「流動性の罠」に陥ることなく経済を立て直すことができるか問われています。
欧州に目を向けると、ギリシャ危機の1年前には「ユーロに参加していればアイスランドは投機を回避できた」と言われていました。ユーロ圏は最適通貨圏の条件を満たしていないなどの欠点のある制度ともいわれていますが、それを「通貨投機回避の傘」から「危機の震源地」に変えたものは何かが問われるべきだと考えます。ユーロ圏はECBによる大胆な金融緩和やギリシャの債務削減交渉の進展などにより、危機の鎮静化に成功したかに見えます。そして危機を契機に、財政規律の強化や銀行同盟創設の決定などの新しい動きが見られます。しかしその先には、経済成長により格差や雇用問題の解決を図り、ユーロ導入の前提であった「収斂」を実現するという、より長期的な課題が待ち構えています。
新興国はグローバル・インバランスの一方の当事者として米国債や政府機関債に投資し、それが長期金利の低位安定化の一因となり、このような事態は、新興国の豊富な貯蓄のアメリカへの流入が危機の原因だとする「世界過剰貯蓄論」を生みました。そして危機後は、アメリカの金融緩和に端を発して「通貨戦争」といわれる事態が生じました。中国も投機資金の流入に見舞われ、元レートを切り上げるか、それを防ぐためにインフレやバブルを受け入れるかのジレンマに直面しています。また、中国では地方政府による「シャドーバンキング」が拡大し、金融システムが脆弱化するのではないかと懸念されています。
さらに金融危機を経験した現在、世界各国に広がる失業や所得格差を解決することに加え、金融規制や通貨制度の選択といった制度改革の問題を避けて通ることはできません。以上のような様々な問題を抱える金融危機後の世界経済を、三極それぞれの観点から分析することを本年のテーマとします。会員の皆様の積極的な参加とご発言をお願い申し上げます。