大会論題

日本国際経済学会 第85回全国大会 共通論題 趣意文

テーマ:労働の社会的包摂とグローバリゼーション

グローバリゼーションの進展は各国の労働環境に大きな影響を及ぼしてきました。グローバリゼーションは雇用機会の創出に寄与してきましたが,国・地域や産業によってはその影響はさまざまです。近年では,グローバリゼーションの揺り戻しともいえる保護主義的な政策も打ち出されています。このような状況のなか,労働者に対する社会的包摂(social inclusion)の視点が,グローバリゼーションの影響を考える上で重要になっています。

これまでの半世紀を振り返ると,1980年代から多国籍企業による海外直接投資やオフショアリングが盛んになりました。このような資本の国際移動は,理論的には国際的な所得の格差を縮めることが示されています。実際,グローバリゼーションは途上国に経済成長の機会をもたらしてきました。輸出指向型の工業化が進展した東・東南アジアの途上国では,所得が底上げされました。さらに,1990年代以降は情報通信技術(ICT)の発達に伴い,グローバル・バリューチェーン(GVC)の形成と生産工程間の国際分業が活発化しました。途上国にとっては多国籍企業の生産活動に加わりやすくなった半面,工程によっては低い付加価値しか得られないことにもなりました。そのような状況の中,職業よりも細かな単位で労働を捉える「タスク」の観点から貿易を分析する重要性が高まっています。

一方で,途上国には貿易やGVCの時流にうまく乗ることができず,成長から取り残された国が多数存在しています。また,グローバリゼーションの恩恵は同じ国内でも一様に享受できるわけはありません。21世紀に入ってからは,その恩恵を享受できない「取り残された人々」の不満や反発が,各国の政策に対して大きな影響をもつようになりました。例えば,米国では第一次トランプ政権以降,保護主義的な通商政策が継続されています。このように,国の間や一国内の格差の問題はグローバリゼーションが進展しても解消できていません。

労働そのものの国際的な移動も,課題に直面しています。国際的な所得格差の存在を背景に,途上国から先進国への労働移民の動きは各地で活発化してきました。移民の受け入れで先行するヨーロッパ先進国では,増加する移民への警戒が英国のEU離脱の一因となったほか,外国人排斥が声高に叫ばれるようになった国もあります。日本をはじめ,少子高齢化が進む東アジアでも,労働力不足に対処するために外国人労働者の雇用が拡大しています。それに伴い,外国人受け入れ政策そのものの見直しを求める動きもみられます。

さらに,近年のICT,人工知能(AI)やロボットなどの技術進歩を背景に,グローバリゼーションと労働の関係はより複雑に,かつ見通しにくいものとなっています。例えば,新型コロナウイルスのパンデミック下で進んだテレワークは,国境を越えた労働参加を以前より容易にしつつあります。また,現在進展している生成AIの発展は,これまで言語の壁によって一定程度守られてきた日本の国内サービス業務への外国事業者の参入を容易にするなど,サービス・アウトソーシングとデジタル貿易を活発化させる可能性があります。他方,ロボット技術の高度化は,先進国への生産の国内回帰(リショアリング)の動きを後押しすることも考えられます。

このような環境の中,より広い範囲の多くの労働者を社会的に包摂し,グローバリゼーションの果実を行き渡らせるような環境を構築することが求められています。そのためには,グローバリゼーションと労働の関係に関するこれまでの知見を改めて集約し,各国・地域の現状を把握した上で,対応を検討することが必要です。具体的には、以下の問題領域を想定しています。

  1. 海外直接投資・オフショアリングと雇用
  2. 工程間国際分業とタスクの貿易
  3. グローバリゼーションと国内・国外の経済格差
  4. 米国製造業の停滞と保護主義的政策
  5. 日本を含む東アジアの少子高齢化と労働力不足
  6. ヨーロッパにおける移民受け入れと社会的摩擦
  7. 外国人労働者問題
  8. 技術進歩とサービス・アウトソーシング
  9. 越境労働とデジタル貿易
  10. 通商政策の展開
  11. GVCの形成と労働環境

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インフォメーション

同志社大学

日本国際経済学会 第85回全国大会

同志社大学(今出川キャンパス)

2026年10月3日(土)・4日(日)


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五百旗頭 真吾(同志社大学)
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