大会論題

日本国際経済学会 第83回全国大会 共通論題 趣意文

「再編へと向かうグローバリゼーションと日本経済」

GATT/WTOを中心とする多角的自由貿易体制は、これまで加盟国を増やしながら輸入関税をはじめとする貿易障壁の引き下げを主導し、紛争処理手続きを伴うルールに基づいた世界貿易のガバナンスを提供してきました。さらに、多くの国がFTA(自由貿易協定)のネットワークを広げ、国際貿易に対する障壁はかつてないほど低くなりました。このような世界規模の自由貿易の広まりに加えて、IT技術の進歩により通信コストが低下したことから、多国籍企業を中心に生産工程の最適立地が追及され、グローバル・サプライチェーンが構築されていきました。グローバル・サプライチェーンの広まりによる経済的効率性の実現は、物価の安定や新興国の経済成長を促し、2000年代前半の世界経済の歴史的高成長の要因の一つとなりました。

しかし、貿易自由化の推進と経済的効率性の追求によって進んできたグローバリゼーションに対し、近年その再編を促す潮流が起こっています。

まず挙げられるのは、米中貿易戦争やロシア・ウクライナ戦争による地政学リスクの高まりです。米国と中国の対立は、両国間の輸入関税の引き上げに始まり、先端技術の覇権争いにまで発展しています。ロシアとウクライナの戦争は、資源や食料価格の高騰を引き起こし、世界的なインフレの原因となりました。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大による国外の工場の操業停止や半導体など重要部品の供給停滞は、グローバル・サプライチェーンの脆弱性を顕現化させました。

これらのリスクへの対応として、主要国は経済安全保障を重視するようになり、重要部品や原材料の特定地域への依存度を引き下げることを目的に、国内への生産拠点の誘致や友好国への生産拠点の分散化といったサプライチェーンの強靭化を目的とした政策を展開するようになりました。先端技術産業では、技術的優位性の維持を目的とした輸出管理や対内直接投資管理といった政策も展開され、グローバル市場の分断が進められています。

二つ目に挙げられるのは、国際ビジネスに対する環境や人権問題への関心の高まりです。国連やOECDなど様々な国際機関や組織が企業に対して環境や人権への配慮を求める原則や目標を提唱し、金融機関がESG投資を増やす中、欧州を中心に、一定規模以上の企業に対し、サプライチェーンの取引先を含めた人権や環境に対するデューデリジェンスを義務化する法制度の導入が進んでいます。また、EUによる炭素コストの低い国からの輸入品に課税する国境炭素調整の導入や、米国による強制労働を理由としたウイグル地区からの輸入を禁止するウイグル強制労働防止法の実施など、環境や人権問題への取り組みを理由とした貿易政策も見られるようになっています。

このような安全保障や環境・人権に関連する政治の動向は、企業のサプライチェーン環境の不確実性を高めており、企業はサプライチェーンの再編と、間接的な取引先を含むサプライチェーン全体の情報開示に注力しなければならない状況になっています。

三つ目に挙げられるのは、デジタル技術の進歩による国際的な電子商取引(EC)や越境データの流通といったデジタル貿易の拡大です。IoTや5G、AI、ブロックチェーンなど第四次産業革命ともいわれる技術革新は、ビジネス・イノベーションの創出や企業のサプライチェーン・マネジメント能力の向上などの恩恵をもたらす一方で、サイバーセキュリティや巨大プラットフォーマーの市場支配力の強まりなど、様々な課題を生み出しています。また、データの越境移転の制限やソースコードの開示要求など、デジタル貿易の発展を阻害する政策も問題視されており、健全なデジタル貿易の発展を促す国際ルールの構築が求められています。

このように、経済安全保障への配慮や環境・人権問題に関する社会的要請、そしてデジタル技術の進化により、グローバリゼーションは大きな転換と再編を迫られています。これらの変化に対して、各国の政策に対する考えは一致しておらず、時には激しい意見対立が生じています。貿易を巡る対立の仲裁や国際ルール策定の交渉を主導する役割を担うはずのWTOは、米国による上級委員の任命拒否によって紛争処理手続きの機能が停止したこともあり、主導的な影響力を発揮することができていません。

そのような状況の中、各国政府は自国の経済的利益の確保とイデオロギーの実現を優先した政策を実施しています。日本政府も同様に、経済安全保障推進法の制定などの政策を実施していますが、欧米諸国と比較して政策実施への取り組みは遅れ気味であり、受け身の対応策に追われているように見受けられます。

このような現状認識を踏まえ、共通論題「再編へと向かうグローバリゼーションと日本経済」では、グローバリゼーションの再編を促す社会状況や技術の変化が日本経済に与える影響、求められる貿易政策や産業政策、そしてCPTPP・RCEPなどのFTAの活用やWTO改革など、グローバル・ガバナンスに関する国際戦略などについて議論したいと考えています。具体的には、以下の問題領域を想定しています。

  1. 経済安全保障と日本経済
  2. 地政学リスクとグローバル・サプライチェーン
  3. 地政学リスクと資源・食糧の安全保障問題
  4. 先端技術産業(半導体・EV・デジタル産業)における貿易・産業政策
  5. 国際的な環境・人権問題への取り組みと日本経済
  6. ESG投資と日本経済
  7. 環境・人権問題と貿易政策
  8. デジタル貿易と日本経済
  9. 新しい日本のFTA戦略
  10. WTO改革とグローバル・ガバナンスの再構築

多くの方からの報告応募をお待ちしております。

自由論題セッションについて

全国大会の「自由論題」につきましては、例年通り自由なテーマで報告希望の申し込みを受け付け、それらを幾つかのセッションに分けて構成する方法をとります。プログラム委員会では、予め以下の「セッション」を想定しておりますので、自由論題の報告希望者は、「オンライン入力」において該当セッションを選択してお申込みください。

  1. 国際貿易
  2. 貿易政策
  3. 国際金融・国際マクロ
  4. 開発経済
  5. 直接投資・多国籍企業
  6. 欧米経済
  7. アジア経済
  8. その他各国・地域経済
  9. 国際通商体制
  10. 地域経済統合
  11. 環境・資源エネルギー
  12. 国際政治経済学
  13. デジタル・エコノミー
  14. その他

企画セッションについて

第76回全国大会(2017年)より「企画セッション」が設けられることになりました。代表者が事前に内諾を得た上で報告者・討論者を3名ずつ選び、セッション単位で報告を申し込むことが可能です。会員が自ら柔軟にセッションを構成し報告を申し込むことができ、様々な研究テーマに対応可能であるという点で、有意義な試みになることが期待されます。報告の可否はセッション単位で行われ、受理された場合は自由論題の時間帯に企画セッションとして開催されます。企画セッションの詳細については、「報告募集要項」の「企画セッション報告の概要」をご覧ください。

英語での報告について

「英語セッション」は本大会では特別に設けませんが、自由論題の各セッション内では英語による報告も歓迎いたします。英語による報告を希望される場合は、報告申込みの際の「オンライン入力」にて報告言語を選択してください。

インフォメーション

神戸大学

日本国際経済学会 第83回全国大会

神戸大学(六甲台第一キャンパス)

2024年10月5日(土)・6日(日)


お問い合わせ

第83回全国大会準備委員会

  • E-mail : jsie2024zenkoku@gmail.com
  • 住所 : 〒657-8501
    神戸市灘区六甲台町2-1
    神戸大学大学院経済学研究科
    中西訓嗣 研究室気付
    第83回全国大会準備委員会 宛

第83回全国大会準備委員会

中西訓嗣(神戸大学)委員長
浅海達也(桃山学院大学)
岩佐和道(神戸大学)
胡 雲芳(神戸大学)
趙 来勲(神戸大学)
橋本賢一(神戸大学)
春山鉄源(神戸大学)


第83回全国大会プログラム委員会
大川良文(京都産業大学)委員長
井上 博(阪南大学)
小森谷徳純(中央大学)
笹原 彰(慶應義塾大学)
高屋定美(関西大学)
田淵太一(同志社大学)
村上善道(神戸大学)
蓬田守弘(上智大学)