大会論題
共通論題:趣意文「連鎖する世界経済における開発―貿易・労働・金融の諸側面から―」
発展途上国の豊富な労働力と先進国の高度な技術がインターネットの普及と情報通信技術の加速度的進歩により融合し、グローバル経済の連鎖は格段に深まりました。国際貿易は、Global Value Chain(GVC)の本格展開によって変容しました。GVCは、中国が先進国企業の委託加工貿易国から世界第2位の経済大国へと発展する原動力にもなりました。その一方で、GVCのうち高付加価値部分は、海外直接投資を主導する多国籍企業が担っている面があることも事実です。GVCへの途上国参画と経済開発の関係を改めて考えることは、今後の国際貿易のあり方を考える上で必要です。また、GVCの展開に伴い、生産工程の透明性(transparency)と追跡可能性(traceability)が注目されるようになり、環境負荷フットプリント、児童労働等、企業の社会的責任(CSR)にかかわる学際的研究も求められています。
途上国がGVCに参画するに当たって、豊富な労働力を背景とした低賃金が重要な前提となってきました。世界の人口動態を見ると、高齢化の進む先進国、人口減少の始まった東アジア、人口増加を続けるインドやアフリカなど、地域ごとに際立った対照性を見せています。途上国のもつ労働力への需要は依然として強いと考えられますが、他方で、一部の欧米諸国における途上国からの移民・難民への反発は、グローバルな連鎖を断ち切ろうとする契機ともなりかねません。更に、人工知能(AI)の登場によって、労働力に基づく途上国の優位性が突き崩される可能性も出てきました。IT化とグローバル化が先進国の国内格差に与える影響についてはこれまで多くの議論がなされてきましたが、新たな技術の登場をふまえ、途上国を含めたグローバルな視点から労働や所得への影響を考え直す必要が生じています。
金融面に目を移すと、グローバル化の中で国境を越えた投資は活発になりましたが、直接投資が途上国の成長を加速した側面がある一方で、増加した資本移動が途上国を共振させつつ通貨危機を頻発させてきたことも否定できません。現在、東アジア通貨危機の残した教訓にもかかわらず、外貨建て債務の増大に関わる警告が増えています。1980年代の中南米債務危機、1990年代のメキシコ通貨危機を顧みると、2015年末に利上げに転じた米国の金融政策の波及効果も注目されます。各国で外貨準備が蓄積され、通貨スワップ締結の動きもありますが、グローバルなセイフティネット充実に向け更なる検討が望まれます。また、中央アジアやアフリカにおける中国による投資の増大が注目される一方で、サハラ以南アフリカ諸国による外貨建てソブリン債発行など開発金融における新しい動きも見られます。世界経済のフロンティアに広がる金融網、先進国におけるODAの見直しの中で、途上国におけるインフラ需要への対応と債務負担の問題について、金融スキーム、開発政策、政治経済体制といった広い視点からの討議が求められます。21世紀初頭にBRICsという名で新興国への期待が語られて久しいですが、途上国を巡るこうした動きが世界経済を新たな地平に導くかどうかはなおも未知数です。
こうした観点から、共通論題「連鎖する世界経済における開発」では、関連する上記の諸論点について、開発経済学における近年の分析手法の革新もふまえつつ、国際経済学の様々な視点やアプローチによって議論することが重要であると考えております。具体的には、以下のような問題領域を想定しています。
- 貿易・直接投資と開発・持続的発展、 GVCとの関連。
- 労働と開発、所得格差、外国人労働・移民。
- 国際金融と開発、開発金融、米国・中国の政策との関連。
- その他
会員の皆さまの積極的な参加とご発言を期待しております。共通論題報告への自薦に加え、他薦も募ります。
なお、共通論題で採用されなかった報告を集め、共通論題セッションとは別に「共通論題関連セッション」を組むことも予定しておりますので、会員各位の幅広いご投稿を歓迎します。
「自由論題セッション」について
全国大会の「自由論題」につきましては、例年通り自由なテーマで報告希望の申し込みを受け付け、それらを幾つかのセッションに分けて構成する方法をとります。プログラム委員会では、予め以下の「セッション」を想定しておりますので、自由論題の報告希望者は、「報告申込書」に該当セッションを明記してお申込みください。
- 国際貿易
- 貿易政策
- 国際金融・国際マクロ
- 開発経済
- 直接投資・多国籍企業
- 欧米経済
- アジア経済
- その他各国・地域経済
- 国際通商体制
- 地域経済統合
- 環境・資源エネルギー
- 国際政治経済学
- その他
「企画セッション」について
第76回全国大会(2017年)より、「企画セッション」が設けられることになりました。代表者が事前に内諾を得た上で報告者・討論者を3名ずつ選び、セッション単位で報告を申し込むことが可能です。会員が自ら柔軟にセッションを構成し報告を申し込む事ができ、様々な研究テーマに対応することが可能であるという点で、有意義な試みになることが期待されます。報告の可否はセッション単位で行われ、受理された場合は自由論題の時間帯に企画セッションとして開催されます。企画セッションの詳細については、後述の「企画セッション報告の概要」をご覧ください。
「ポスター・セッション」について
第70回全国大会(2011年)より、「ポスター・セッション」が設けられました。報告者との密なるコミュニケーションが可能という点で、オーディエンスにとっても大変有意義な報告形式であり、本大会でも引き続き実施いたします。本セッションでの発表を希望される会員は、後述の「ポスター・セッション報告の概要」を参照のうえ、その旨を「報告申込書」を用いてお申し込み下さい。また、第74回大会から、ポスター・セッションの報告者全員に対し、各自1分間の「フラッシュ・トーク」の機会を設けることにしました。フラッシュ・トークとは、大会1日目のポスター報告に先立ち、各報告者がスライド1枚を映写しながら、報告の主張やセールスポイントを簡潔に口頭説明するセッションです。フラッシュ・トークについては、後述の「フラッシュ・トークの概要」に示す要領に従い、ご準備ください。
希望が非常に少なかったため、今大会はポスターセッションを実施しません。
英語での報告について
「英語セッション」は、本大会では特別に設けませんが、英語による報告も可能ですので、英語による報告を希望される場合は、自由論題の各セッション内でお願いします。なお、「報告申込書」にて報告言語を選択してください。