この度は、新たな試みとして、上記のように共通論題を2つ掲げて同時並行で討議して頂くことになりました。これは専門分野が多様化している日本国際経済学会の会員の皆様の興味を単一の大きなテーマを共通論題として集約するよりは、比較的大きな複数のテーマを論題とすることで、束ねてみようという試みに他なりません。
さて、共通論題として掲げられた2つのテーマですが、何れも近年盛んに議論されているグローバル化に関わるものです。日本国際経済学会全国大会でも共通論題のテーマとして何度か取り上げられ、その他の大会でも自由論題のテーマとして類似の論題が議論されてきています。しかしながら、グローバル化の進展が国際金融にどのような影響を及ぼしているのか、また世界の所得分配がどのように変化しているのかは、依然とし大変興味深い問題であると思われます。
輸送技術と情報技術の急速な発達に伴うグローバル化の加速的な進展によって、国際貿易と海外直接投資は大きく増大すると同時に、金融資本や人の国際間の移動も急速に増加しています。グローバリゼーションの進展によって、多くの発展途上国が高い経済成長を達成していますが、中でもBRICSを中心とする国々や東アジア地域は目覚しい経済成長をとげ、それらの世界経済に占める影響力の増大は、目を見張るものがあります。こうした変化は、いうまでも無く国際間の所得分配や(先進国途上国を問わず)一国内での所得分配に大きな影響を与えています。
こうしたグローバル化の進展に呼応して、国際通貨システムの面では、ユーロが1999年に導入されその影響力を近年著しくに高め、ドル一極支配体制を崩しつつあるように見えます。また、巨額の経常収支赤字と対外債務を抱えるアメリカ経済が、景気後退局面に入ることによって、世界的な不均衡や資金循環に対してどのような影響を与えるのかという問題も、本学会が分析対象とすべき大変興味深い問題です。さらに、BRICS各国を中心とする途上国経済の国際金融に占める影響力が増大し、ドルを中心とした国際通貨システムにも影響を与えつつあります。
また、グローバル化の進展の一側面は、日本のような先進工業国にとっては、オフショアリングという形態の進展として捉えることができます。すなわち、企業が自社の業務プロセスの一部もしくは全部を海外に移管・委託するという現象が、東アジア各国、東欧・ロシアその他などで頻繁に観察されています。こうしたオフショア化が関係国間にもたらす帰結については、理論・実証の両面で検討することが必要とされています。
他方、グローバル化の急速な進展に伴って、財・サービスの国際間の取引が盛んとなっていますが、財・サービスに関する基準(スタンダード)の相違が、様々な戦略的な競争やトラブルを生んでいます。家電製品などの工業製品に関しては、国際標準の確保は市場拡大のチャンスを意味しますが、医薬品や食料品などでは、スタンダードの違いは貿易摩擦の原因ともなっているからです。
こうした点を考慮して、プログラム委員会としては、各共通論題に関して、それぞれ以下のような問題領域を想定しています。
共通論題(1):
- 世界的な不均衡と資金循環
- 拡大する国際資本移動と途上国の為替相場制度
- ユーロの台頭と基軸通貨ドルの行方
- 人民元切り上げ問題とアジアの通貨・金融システム
- BRICSの台頭が国際通貨システムに与える影響
- 価格硬直性と為替レート調整問題
- その他
共通論題(2):
- オフショアリングと南北間格差
- EUの東方拡大と地域間格差
- 技術移転と所得分配
- グローバル化と貿易リスク
- グローバル化とGMO貿易
- バブル崩壊後の日本の経済格差
- その他
プログラム委員会と致しましては、共通論題(1)と(2)に対する会員各位の積極的な応募と、当日における活発な討論を期待しております。 |