同時進行する経済のグローバリゼーションとリージョナリゼーション

早稲田大学 浦田秀次郎

 

近年における世界経済の特徴の一つにグローバリゼーションとリージョナリゼーションという一見すると矛盾するような動きが同時に進行していることが挙げられる。グローバリゼーションの進展は世界各国の経済活動の中に占める貿易や直接投資などの国際経済活動の比重が増大していることで確認できるが、その背景には、情報技術や輸送技術の急速な発達、規制緩和、貿易・投資の自由化などによってモノ、ヒト、カネ、情報などが世界レベルで大規模に移動するようになったことがある。他方、経済活動のリージョナリゼーションの進展を示す一つの指標としては世界貿易あるいは世界諸地域における地域内貿易の比重の拡大がある。世界経済は北米(NAFTA)、欧州(EU)、東アジアを3極として捉えることが多いが、近年、NAFTAと東アジアでは貿易の地域化が進んでいるが、EUにおいてはその傾向は確認できない。ただし、EUにおいては既に地域化がかなり深化しているという実態もある。経済活動のリージョナリゼーションは市場メカニズムにより企業が自発的に行動した結果として進展することもあれば、地域貿易協定(RTA)のような制度的枠組の下で進展する場合もある。本稿の分析では、東アジアにおけるリージョナリゼーションは前者に分類されるのに対し、NAFTAおよびEUに関しては後者の性格が強いことが示唆される。ただし、近年になってWTOの下での多角的貿易自由化が期待されたようには進まないことから、日本を初めとした東アジア諸国を含めて多くの国々がRTA(地域貿易協定)の締結を通して制度的リージョナリゼーションを追求するようになった。RTAは国内改革の推進、特定の国々の間であることから限定的ではあるが自由化の進展、WTOにおいてルール化されていない分野におけるルール化の推進など多くのプラスの効果が期待できるが、世界貿易制度の複雑化や多角的貿易自由化への関心を低下させることから世界貿易の進展を抑制するような効果をもたらす可能性も排除できない。因みに、近年における3極でのリージョナリゼーションは域外との貿易を拡大させていることから両大戦間に形成された閉鎖的なブロックとは性格が異なることから、現時点においては世界貿易の低下を通して世界経済の成長を鈍化させるものではないと思われる。現在急速に進みつつある制度的リージョナリゼーションがグローバリゼーションを抑制せずに、補完的な形で進行するにあたって、本稿では世界各国、その中でも特に日本に対していくつかの提言が提示される。主なものはWTOで規定されているRTA設立の条件を厳格に遵守すること、WTOにおいてRTAについての検討を行なう地域貿易協定委員会(CRTA)の機能強化を図ること、WTOにおける多角的貿易交渉のモメンタムを維持および強化することなどである。